━Self-Exclusion Program━

 今回は将来のギャンブル依存症対策に大きな期待がかけられているSelf-Exclusion Programについてもう少し深く見ていきたいと思います。2001年3月にスタートしたニュージャージー州のSelf-Exclusion Programについてはこのページ内で以前にご紹介した「━防止・対応策 (ギャンブル依存症)━」の通り。同様のプログラムはカナダ、オーストラリア、一部のヨーロッパ諸国などでも実施されており、未だ実験段階ながらその効力には大きな期待がよせられています。  

 アメリカ、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパとそれぞれ細かな違いはありますが、大まかなプログラム概要はほぼ同じです。その共通となる特徴は

1.ギャンブル依存症の自覚のある利用者が自主的にプログラムに登録

2.登録者リストは地域内の各カジノに配布される

3.その時点で登録者の住所が各カジノの顧客リストから除外され、登録者に対しカジノ関連ダイレクトメールは送られなくなる

4.登録者は飲食、ショッピング、その他のエンターテイメントでのカジノ利用は許されるものの、カジノエリアへの立ち入り、プレイ、換金は禁止される

5.登録者の不正プレイが発覚した場合は、配布されたリストと照らし合せた上で「不法侵入者」としてセキュリティによって立ち退きを求められる

6.セキュリティの指示に従わない場合は、「適切なる強制力(reasonable force)」がセキュリティにより行使される

 以上のようなものです。このプログラムの起点となるのはギャンブル依存者が「依存症を治そう」とする決意です。そしてその決意を助け、彼らの依存症治療の責任の一端を担おうとする業界団体との協力関係の中から実現したのがこういったプログラムです。したがって、このプログラムにはカジノ規制法上の強制力は一切無く、各カジノとギャンブル依存者との間で結ばれた契約書を基本としてプログラムが組まれています。

 2003年に行われた「Prevention of Problem Gambling Conference」において「Casino Self-Exclusion Programmes: A Review of the Issues」(Nadine Nowatzki, Robert Williams)と題して、カナダのSelf-Exclusion Programに関する報告がなされました。以下は、その報告書に基づいて-Exclusion Programの実行力とその問題点を検証していきたいと思います。

 カナダでは1989年にモニトバ州でSelf-Exclusion Programが初試行されて以来、現在2003年までに国内7州がそれぞれ同様のプログラムを持つにまでなりました。細かなプログラム形態は以下の通りです

 

カジノ数
プログラム実効期間
実効期間中の登録解除
登録者に対する罰則
現在の登録者数
British Cllumbia
19
6ヶ月
なし
741
Alberta
16
6ヶ月
不可
不法侵入の場合罰金
661
Saskatchewan
7
最大5年まで
不法侵入の場合罰金
394
Monitoba
2
2年
不可
不法侵入の場合罰金
545
Ontario
8
最小6ヶ月〜任意の期間
不法侵入の場合罰金
2000
Quebec
3
6ヶ月〜5年
不可
なし
3331
Nova Scotia
2
任意の期間
なし
826

 以上がそれぞれのプログラムの概要ですが、気になるのはその実効性。それに関しては、プログラム登録者のおよそ30%が「完全に」ギャンブルを止めた(Ladouceur et al, 2000)という報告も出ています。こういった資料を見ると、このプログラムの実効性はかなり高いと評価して良いでしょう。しかし現状では、カナダ内のギャンブル依存者のおよそ0.4%〜1.5%にしか利用されておらず、プログラムそのものの認知面ではまだまだ工夫が必要なようです。  

 また以上の報告書から、プログラムに今後必要な様々な改善点を紹介してみましょう。

1.現状ではあくまで各カジノの連携による「自主的な」プログラムであり、個々のカジノに対するプログラムの強制力はありません。よりプログラムに実効力を持たせるためには、登録者の不正プレイへの罰則と共にカジノへの罰則を設けるなどの工夫が必要です。

2.プログラム実効期間中に登録者自身による登録解除が可能なプログラムも半数近くあるようですが、ギャンブル依存者はプログラム登録後にギャンブルをするために衝動的に登録解消をしようとする傾向があるようです。それを防ぐためには実効期間中の登録解消を不可にする、もしくは衝動的な登録解消ができないようなプロセス作り(登録解消にはカウンセラーの同意が必要など)が重要だと思われます。

3.現在は目視による確認によって登録者をカジノから排除する方法が主流ですが、それをデータベース化された各カジノの顧客管理システムと掛け合わせることによって、さらにプログラムの実行力は高まるでしょう。実際にそういったシステムがすでに構築されているオランダのカジノでは、さらに大きなプログラムの効力が認められているようです。

4.最終的にはこのプログラム単独の施行ではなく、他のカウンセリングプログラムなどと組み合わせ、ギャンブル依存者の症状の重度によって段階的に依存症に対する処置をしてゆく事が理想です。そうすることによってより間口の広い依存症対策と、より広いSelf-Exclusive Programの認知が可能になるはずです。  

 Self-Exclusive Programはまだまだ実験段階であり、本格始動している国や地域はありません。しかし、このプログラムはギャンブル依存症に対する解決策のひとつとして大きな期待がよせられており、今後もさらに研究が進んでゆくことでしょう。私達、Casino Timesでも今後より深くこのプログラムに対する研究を続け、さらにこのプログラムを日本にどのような形で採用することが可能か、ということに迫っていきたいと思っています。

文責:Kiso

参考;Casino Self-Exclusive Programmes: A Review of the Issues, 2003, Nadine Nowatzki & Probert Williams

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