■ カジノサービス論 その2

  カジノサービスに欠かす事の出来ないコンプ については、前回簡単にご紹介しました。 今回は、このコンプとサービスとの関係についてもう少し詳しくお話したいと思います。

 1940年代のネバダ州で始まったコンプサービスは、 もともと、ブラックジャックなどのテーブルゲームを行う高額プレイヤーといったごく一部に提供されていた優遇サービスでした。 しかし現在では、テーブルゲームでのレイティングシステムの確立やIT基盤の強化によるマシーンゲームでのプレー記録により、一般プレイヤーでもコンプ獲得が可能になったのです。 その結果、全てのプレイヤーに対して、コンプ発行が可能となり顧客満足度は著しく向上しました。 その一方で、特権的に発行されていたコンプを誰でも獲得出来き、顧客間のサービスが均一化するという新たな問題に直面します。

 そこで、カジノは顧客のプレー実績にあわせコンプ発行を行い、サービスのバランスを維持するのです。 1ドルでも多くのお金を落としてくれるプレイヤーがカジノにとってより価値のある顧客となり、 より良いコンプサービスを獲得する。 つまり、「サービスの差別化」が生まれたのです。

 この考えは、ホスピタリティーの世界において、サービスは全ての顧客に対して分け隔てなく平等に行う、といった定石と逆行するものです。 コンプは顧客を徹底的に区別し、サービスの常識を覆したのです。 部屋の優先的な予約から専用ラウンジでのチェックイン、 リムジンサービスに専用パスライン。 誰にでも同じ公平なサービスより、顧客のプレー実績に応じた公正なものへとサービスが多様性を見せ始めたのです。

 その考えが明確に表れているのがラスベガスに本社を構えるハラースエンターテイメント社。(以下、ハラース) 業界紙が毎年発表する顧客サービス度で常にトップの座に君臨し続けるハラースには、2500万人分の顧客データが蓄積され、徹底的な顧客分析を行い、One-to-One Marketingにより 顧客に応じたサービスアプローチを行います。 「顧客は同じではない」という明確な経営理念を古くから掲げ、 画一的なサービス手法を完全否定しているのです。

 ハラースの発行する『Total Rewards』と呼ばれるプレヤーズカードに もその思想を垣間見る事が出来ます。 このカードでは、プレー実績に応じてプレイヤーをダイヤモンド、 ゴールド、プラチナの階層に分類し、各階層にあわせたサービスを提供します。 業界の先陣を切って始められたこのシステムでは勝ち負けには関係なく、より多くの金額を賭け、 より多くの時間プレーした者が、より良い階層に分類され、 より良いサービスを受けるのです。 ハラースは小額ギャンブラーへのサービスをおろそかにするのではなく、全ての顧客に対してベストのサービス を約束しています。ただ、そのサービスは、顧客に応じて質を変えるべきだ、と主張しているのです。 カジノは、顧客を階層にわけ、全ての顧客は同じといったホスピタリティー精神の根底にあるものと、明らかに逆を行く面白いサービス業でもあるのです。

<文責;Masayuki Higashitani>

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