━代替効果 その1━

 カジノの経済効果を語る時、そのあまりにも大きな雇用創出効果や税収効果などの「正の経済効果」に目が行きがち。しかし、実はカジノ合法化には負の経済効果もあります。それがSubstitution Effect(代替効果)と呼ばれる負の経済効果です。  

 代替効果とは、簡単に言ってしまえば

 「近所に大型スーパーができたおかげで、近所の中小商店にお客さんが来なくなった」  

 という例に見られるような、大型商業施設が地元既存産業に与える打撃のことを指します。この代替効果はカジノ建設のみではなく、スーパー、ショッピングセンター、遊園地、ホテルなど、大型の商業施設であれば例外なく起り得る効果ではありますが、その中でも特にカジノによる代替効果はその他の大型商業施設に比べ大きくなると言われています。  

 ここで少し米国東海岸最大のカジノ都市、ニュージャージ州アトランティックシティの例を見てみましょう。アトランティックシティは1976年のカジノ合法化以降、劇的に都市への訪問客数を増やし、州経済は急成長しました。現在ではカジノ合法化の成功例の一つとして数えられ、理想的なカジノ都市構築のモデルケースともされるカジノ都市です。しかし、そのアトランティックシティが解決しきれなかった大きな問題の一つが今回のテーマである代替効果だとも言われています。  

 アトランティックシティの「ボードウォーク」は都市内の9割のカジノが集中するメインストリート。週末ともなれば周辺都市からやってきた観光客で溢れ返るアトランティックシティ観光の中心地ですが、実はこのボードウォークの繁栄の裏にはそのすぐ北東側に広がる広大なスラム地域が隠されています。カジノ建設の直後の1977年、市内には243件のレストランがあったのに対して、10年後の1987年にはその数が146件にまで落ち込んでしまう(Jongbo Kimのレポートによる)など、カジノ地域以外での街の縮小が進んでいます。観光客で溢れるカジノのすぐ裏で貧しい人達が路上で眠る。これは現在、アトランティックシティの抱える大きな社会問題となっています。  

 「カジノは小さな街である」と表現されるように、カジノはその内に多くの娯楽施設、ショッピングセンター、レストラン、宿泊施設を含む大型複合施設です。その様な複合施設においては、大抵の事が施設内で用が足りてしまうために滞在客がカジノ外に出ない。それどころか、地元既存産業の顧客がカジノに吸い上げられてしまい逆に地元中小商店への客足が減ってしまうということも起こり得ます。  

 特に現行で観光産業を主要産業としている都市にカジノを誘致する場合は、別段の注意が必要。既存観光産業とカジノが上手く相乗し合い都市全体に大きな正の効用を与えれば良いのですが、逆に新規参入のカジノが既存産業を侵食してしまう可能性もあるのです。今回見たアトランティックシティの例はまさにこれに当たるものでしょう(実はこれに反論を唱える専門家も多いのですが、それはまた別の機会に紹介します)。

参考資料:How can the experience of the U.S. casino industry be adopeted to South Korea?, Jongbo Kim, 2000, UNLV

 

戻る