━機会損失(oppotunity loss)━

 近代カジノ合法化の歴史を見るとそこには少し変わった現象が起こっていることが分かります。それは、一つの地域がカジノ合法化を果たすとそれに連鎖する形で周辺地域が続々と合法化へと転化するという現象。この現象は特にアメリカ東部各州に現れており、1989年のサウスダコタのカジノ合法化に始まり、1990年のコロラド、イリノイ、ミシシッピ3州、1991年のアイオワ、ルイジアナ、ミズーリが合法化。1994年にはインディアナがそれに追随するという現象が確認されています。

 実はこの現象の裏には「機会損失」という考え方があります。機会損失とは、もしある行動を取っていたとしたら享受できたはずの利益を、その行動を取らないがために失ってしまう事。ひとことで言ってしまえば「儲けそこない」の事です。

 事の良し悪しは別として、たとえギャンブルが禁止されている地域においてもそこには確実にギャンブルに対する潜在的な需要が存在します。では、もしそのような禁止地域の周辺にギャンブルを合法とする地域ができたとすると、どうなるでしょうか?当然、眠っていた需要が目にみえる形となってギャンブル禁止地域から合法地域へと流出してゆきます。その結果、ギャンブル合法地域は周辺の禁止地域から流れ出てくる資金から大きな恩恵を受け、逆に禁止地域からは莫大な資金が流出することになります。


 米国マサチューセッツ州は米国東海岸一円の連鎖的カジノ合法化に乗らず、カジノ禁止を貫いた地域です。しかし、そのマサチューセッツ州において1996年に実施された調査によると、マサチューセッツ州民は年間およそ3億6900万ドル(約442億円、$1=\120換算)ものお金を周辺他州のカジノで使っているという結果がでています。(Center For Policy Analysis University of Massachusetts Dartmouth, 1999)

 このマサチューセッツ州の例のように、資金流出が大きくなればなる程、これまでギャンブルを禁止してきた地域もただ指をくわえて見ているだけでは済まなくなります。そういった大きな資金流出は地域経済にとって大きな「機会損失」となり、致命的な政策ミスともなり得るからです。そこに「周辺他地域にみすみす資金を流出させる位ならば、自地域にもカジノを...」という発想が出てきても不思議ではありません。マサチューセッツ州も当然、現在カジノ合法化論議が急速に広がっています。

 「カジノによる経済効果で地元産業の隆起を!」というのを「積極的(主体的)合法化動機」と呼ぶとすれば、ここで見られるような「他地域へのカジノ需要流出を防ぐ」ための合法化動機は「消極的(受動的)な合法化動機」と呼ぶことが出来ます。そしてこの消極的合法化動機こそが1980年代末に始まったアメリカ東部の連鎖的カジノ合法化の大きな要因なのです。


 さて、現在の日本のカジノ論議はほとんどが経済効果を狙った「積極的な合法化動機」がベースとなっていますが、当然今回ご紹介した「消極的な合法化動機」も存在します。海外旅行が身近なものになるにつれて、日本国内から海外に流出するカジノ需要は無視できない規模に成長してるのです。同時にそういったカジノ需要は海外のみならず、国内の違法カジノ市場へも流れています。以下はそういった日本の現状について、詳しく見てゆくことにしましょう。

参考資料;
The Economic & Fiscal Impact of Three Casino &* Entertainment Resorts in Massachusetts, Center for Policy Analysis University of Massachusetts Dartmouth, 1999

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