━Tribal Casino(その2)━

 1988年に連邦議会を通過したインディアンゲーミング規制法。 今回は、この規制法が原住民居留地、更にはアメリカのゲーミングビジネスに与えた影響について考えてみます。

 規制法通過後、最も大きなうねりを迎えたのがアメリカ各地に広がる原住民居留地。 それまで、クラス1,2という限られたゲーム、規模で行われていたカジノ運営に、クラス3のカジノが認可されたのです。 クラス3のカジノ開設は、居留地内にもスロットマシーンの設置を認め、ラスベガス型の巨大カジノ運営を可能にし、Tribal Casinoの売上高は飛躍的な伸びを見せ始める等、それまでの居留地カジノの小規模運営という概念を根本的に覆すものとなったのです。

 さらに、規制法通過の影響は、居留地に留まらず、カジノを基幹産業とするラスベガスをはじめ、ゲーミング業界全体に大きく波及します。 90年代に起こったアメリカ経済の景気拡大は、カジノの建設ラッシュとして、ラスベガスを新たなリゾート観光地へと世間に知らしめました。 しかし、その建設ブームの背後にあったと言われるのが、インディアンゲーミング規制法の存在。 州政府との協定により、事実上、全米各地の居留地に開設可能となったラスベガス型カジノ。各地に広がるラスベガス型カジノに危機感を覚えた当局が一丸となり、建設ブームを仕掛けた経緯もあるのです。

 さらに、Tribal Casino開設は、それまでカジノが解禁されていない州境で運営されていた商業カジノにも多大な影響を与える結果となります。 カジノを持たないアリゾナ州との州境に位置するネバダ州の小さな街ラフリン。 ラフリンは、アリゾナ州民にとって最も近場のカジノリゾート地として親しまれ、その収入源の多くをアリゾナ州民に依存していたのです。 しかし、94年に原住民が政府と協定を結び、10ヶ所のTribal Casino運営に乗り出すと同時に、ラフリンのカジノ収益は下降の一途を辿ります。

89 $345,348
90 $397,435
91 $463,058
92 $506,809
93 $540,607
94 $534,991
95 $515,338
96 $490,661
97 $482,224


出所;NEVADA GAMING CONTROL BOARD

 さて、規制法通過後、Tribal Casino運営に積極的に取り組むのがネバダ州の隣に位置するカリフォルニア州。 財政難に苦しむカリフォルニア州が財源確保に目をつけたのがTribal Casino。 現在カリフォルニア州のTribal Casino数は50を超え、今後もさらに増え続ける事が予想されています。 その市場規模は、Tribal Casino全体の半分を占め、収益はアメリカのゲーミング産業全体で見ても、ネバダ州に次ぎ、業界2位。 カリフォルニア州Tribal Casinoの2002年度の収益は50億ドルにも達し、ネバダ州が70年かかった収益をおよそ10年という月日で達成したのです。

 しかし、繁栄目覚しいカリフォルニアのTribal Casinoが今後更なる発展の為には、改善すべき多くの問題を抱えるのが現状です。 カジノビジネスの健全な発展の為に重要な役割を果たすのが管理、監督システム。 Tribal Casinoにおいて、この任務を担当するのが、インディアンゲーミング委員会です。 しかし、本来クラス2を管理、監督する為に設立された委員会は、現在爆発的に増加するクラス3のスピードについていけず、完全な機能マヒ状態。 先日、不正クジ開帳を行った経営幹部がベネチアンを去り、規制の甘いTraibal Casinoで、 再びカジノ経営に関るなど、システムの甘さを露呈する形となっています。 また、ゲーミング売上高の情報開示の義務も無いなど、 その会計システムの不透明さも、Tribal Casinoが抱える大きな問題点。

 カジノフロアー面積世界一のFoxwoodを抱えるコネッチカット州のTribal Casino。 10年後には、市場規模がネバダ州を抜くと予想されるカリフォルニア州のTribal Casino。 今後も、Tribal Casinoがゲーミングビジネスに占める割合を増加させる事が予想される中、 健全な発展の為には、商業カジノとの連携を強め、不適格な人物の締め出し等、現在の甘いシステムの改善は、必須条件となります。 インディアンゲーミング委員会を含め、今後のTribal Casinoの動きにはまだまだ注目です。




<文責;Masayuki Higashitani>

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